突然の訪問者

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「御覧の通り、リンはもういないよ。2週間以上前に、この家から出て行ったんだ」 「はい。知っています。リン様は、自宅に帰っていますし、私たちでお世話させていただいておりますので……」  抹茶から『リンは家に帰っている』という報告に安心して胸を撫でおろす。  リンと話した時に家へは帰れないと言っていた。  どこかで野宿して寒い思いしてないか、お腹を空かせてないか、生活は出来ているかが心配だった。それも、すでに自宅に帰っているのであればまったく問題ないだろう。  あとは、お見合いでもしてリンにお似合いの可愛い伴侶を見つけてくれればいい。  もう、蒼が口出す必要はない……いや、出来ないと思った。  可愛いお嫁さんが来てくれるのであれば、きっとリンだけではなく、リンの家族にとっても喜ばしい事だろう。  それなのに蒼は、今後のリンの人生については全く関係ないはずなのに、自分だけが取り残されたような感じがして、胸が締め付けられる……。 (胸が痛い。リンが幸せになれるってことだろう? それに、あいつが求めていることを満たせないのであれば、自分のそばに置いておく理由も、資格もない。それなのに……。俺の胸の痛さって、なんなんだよ)  自分の胸が空洞になったような、寂しさで体が支配されそうになる。  何度も何度も頭の中で『リンの幸せを一番に考えろ』と言い聞かせるが、胸をえぐり取られたような気分になる。  蒼は、頭を振り自分の思考をリセットさせようとした。  ふと、なぜこのリンの執事猫は、蒼に会いに来たのだろうかと思った。  蒼に、わざわざ引導を渡すために部屋まで来たのであれば、リンが戻ってくる気配は一切ないことは2週間も実家から出る気配がなければ理解できるはずだ。  それなのに、なぜわざわざ蒼に会いに来たのだろう。  先程、リンの近況を話してくれた抹茶に蒼は疑問を投げかけた。
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