梅雨の晴れ間に

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「あっ、猫……」  1匹の黒い猫が、少し離れたベンチの下にいる。リンでもなく、前回家に来た抹茶や小豆でもなく、全く見たことのない猫だった。  猫が現れたことにより少しだけ希望の光が見えた気がして、その猫に蒼は近づこうと歩みを進める。少し近づいた所で、警戒心を露にした黒猫がくるりと背を向け逃げようとした為、急いで蒼は、黒猫に話しかけた。 「ま、待って! リンっていう猫を知らないか? リンは、猫の王様の息子なんだ。そして、ロシアンブルーで……」  蒼の言葉を聞いた途端、先ほど逃げようとしていた猫が背を向けたまま動きを止めた。 (もしかして、俺の、言葉がわかるのか?) 「あのー、俺は蒼っていうんだけど、アイツに、リンにどうしても会いたいんだ。会って謝って、そして話し合わないといけないんだよ……。アイツの家がどこか知らないか? 俺、あいつが家を出て行ってからずっと窓を少し開けて帰ってくるのを待っているんだけど……、アイツ帰ってこないんだよ。だから、俺から会いに行こうって思って……」  黒猫はずっと背中を向けたまま、耳を傾けてくれているのか止まったまま動かない。  蒼は、自分のリンに対する気持ちがわかってくれたと思い、再び黒猫に近づこうとしたその時、その黒猫は『ミャー……』とひと鳴きした後、公園を駆け抜けて行ってしまった。  蒼は、黒猫が走って行ってしまった公園の先を、切なげな瞳で見つめることしか出来ずにいた。
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