梅雨の晴れ間に

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「あ……、ダメだったか……。言葉を分かってくれて、大丈夫かと思ったんだけどなぁ……」 (もう2度と、リンに会うことが叶わないかもしれない)  そう思うと、涙が溢れるのを止めることが出来なかった。  蒼は自分から手を放して追い出したにも関わらず、再び会いたいなんて、いまさら虫が良すぎるし最低だと思う。でも、悲しくて辛くて……このリンに対する自分の感情の所在が分からなかった。どうしてこんなにも涙がとめどもなく溢れてくるのかわからない。  自分にとってリンはどんな存在なのだろうと、自問自答しながらゆっくりと来た道を戻り自宅へと帰っていくのだった。  そして、自宅に着いた蒼は、電気を点ける気すら起きず、万年床の布団に着の身着のままダイブした。フカフカな布団ではない為、お腹を打ち付けてしまい痛みを伴う。 「い……ったぁ……」  今蒼が感じた痛みなんて、リンの心の痛みとは比べものにならないかもしれない。  家に帰る間も泣いていたのに、34歳の大人の男が泣くなんてみっともないと思ったが、涙が止まる気配すらなかった。    いつものように、すでに匂いがほとんどしなくなったリンの定位置の寝床に鼻をつけて匂いを嗅ぐ。  少しでもリンが存在していたことを、蒼と一緒にいて大好きだと言ってくれていたあの時を思い出す。そして、自分の心の寂しさを埋めるように今日も丸まりながら、蒼は眠りに落ちるのだった。
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