アイツと俺のビターフレイバー

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アイツと俺のビターフレイバー

 蒼が勤めているさざんか食品の営業部は、土日祝日休みの9時から18時までが勤務時間だ。  部長の蒼は、残務処理をやりつつ毎日1~2時間ちかく残業をしている。  もちろん三連休前の今日も例外ではなく、ようやく仕事の目途がついたのが、19時半過ぎ。 「はぁぁ……。お、終わったー。これだけやれば、連休明け少しはマシかな」  椅子の背もたれに体を預け両腕を上にあげ伸びをする。周りを見渡すと、三連休前の金曜日だからなのか、誰一人残っている者はいない。 「誰も残っていないのかよ。少しは、手伝いますかの一言くらいあっても良かったんじゃないか? 薄情だな、俺の部下は……」  文句を言いながら、溜息を一つ吐く。  まぁ、残業削減と言われている昨今、正しい勤務様式なのはいなめない。けれど、聞かれてないしちょっとくらい愚痴言ってもいいよな……と、自分の言動を肯定する。 「俺も帰ろ」  パソコンの電源を落としてディスプレイを眺めていた蒼は、思い出したように「そうだ!」と、手を叩いた。 「今日はアイツがカニカマ買って来いって言って冷蔵庫に社割で購入したカニカマが入ってるんだった。忘れずに持って帰らなきゃな」  立ち上がると、休憩室にある冷蔵庫へ向かう。そしてリンの為に購入したカニカマ十個を取り出し、鞄に詰め込みながら部屋で留守番をしている愛猫を思い浮かべる。昼間は散歩や寝て過ごしているみたいだが、時々部屋中を散らかしてしまい、帰った途端、怒鳴ることもしばしばーー今日は、大人しくしているのか。それとも、散らかしているのか……。  どっちだろうと思い、リンのことを考えるとついにやけてしまう。  取っ組み合いの喧嘩をしたり、言い合いをすることがあっても、結局かわいくて好きで堪らないのだ。  リンのことを思い浮かべて緩んだ顔を戻す。       そして、鞄を手に持ちオフィスの電気を消し、待ちわびているだろうリンの為に家路を急いだ。
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