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猫に対する自分の知識の無さに愕然とした。
こんな時こそ、抹茶や小豆がいたら少しは事態が違ったのかもしれない。こういう時に限ってリンの執事たちは姿をあらわしてくれない。
「いつも傍で見ているんじゃなかったのかよ」と悪態をついてみても、むなしく部屋に蒼の声が響くだけで……。
お腹を摩っているだけでは一向に事態は改善しないと思った蒼は、一つの結論に達する。
――獣医か……。
動物病院に行ったら、思うような治療や薬を貰えるはず。けれど、このまま成人男性の姿で猫耳としっぽを生やした姿で行くわけにはいかない。
「なぁ、リン。猫になれるか? そしたら、病院に連れていけるんだけど」
「ね……こ……」
汗ばんだ額に張り付いている綺麗な銀色の髪の毛を剥がしながら、蒼は優しい目で語り掛ける。
「そうだよ。今、猫に変身できるか?」
「ち……から……で…な……」と、力なさげに言葉を吐く。
その様子を見た蒼は、深いため息を吐きながら肩を落とし、リンの汗で湿った髪の毛を触りながら「どうしたらいいんだろうな……」と、呟いた。
変身出来ないなら、人間の薬はどうだ?
部屋の中をひっくり返して「胃腸薬、胃腸薬」と言いながら薬を探す。
以前、自分もおなかが痛くなった時にお世話になった殺菌すると評判の万能薬がまだ残っていたはずだ。
「あ、これこれ」
薬を手にした蒼は、台所に行って水を汲んでくる。そして、薬の蓋を開け黒い球状の薬を三粒手に出す。漢方薬特有の匂いに顔をしかめながら、リンの口を開け薬を入れ、水を流し込む。
「ウッ……」
苦さに顔をしかめたリンは、そのまま薬を吐いてしまう。
「吐くなって。このままじゃ、良くならないだろう?」
「ま、ま……ずっ……」
「不味くても、飲めよ」
そういうと、再び口を開いて薬を入れる。そして、コップの水を自分の口に含みそのままリンにキスをして水を流し込む。吐き出すことが出来ないリンは、そのまま嚥下した。
夜通し蒼はリンの看病をしていたのだが、薬の効果か翌日の昼には、熱も下がり平静を取り戻したのだった。
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