最終章

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 次の日も少女は男の前に現れた。少女は今日初めてこの町の学校に行ってきたと嬉しそうに語った。友達もたくさん出来たのだという。ランドセルを背負った少女はそれだけを言うと、足早に帰っていった。  それからもずっと、平日の学校帰りには少女は男の下へ現れた。今日は嬉しいことがあった。悲しいことがあった。不思議なことがあった。少女は相変わらず返事のしない男に向かって話しかけ続けた。  そんな日々が数年続いたが、ある日少女は暗い表情のまま、男の下を訪れ、こう言った。 「あのね、もうお母さんがおじちゃんに話しかけたりするんじゃないって。変に思われちゃうからって。だから今日でさよならね」  少女は何時ものように足早に帰っていった。男は何も言えないでいた。  それからも男は公園に居続けた。あれから雨の日が何日あっただろう、風の強い日が何日あっただろう。男はそこでただじっと座っていた。  数年が経った後、すっかり成長した少女が再び男の下へと現れた。そして周りを見て誰もいないことを確認すると、男に背を向けたまま話し始めた。 「あのね、これからデートなんだ私。……この町に引っ越してきてから、初めてあなたに会った日からもう何年も経ったね。あのね……」  親子連れが少女の近くを通り過ぎた。少女は男に話しかけるのをやめて、時計を見るふりをしたりして離れていくのを待ってから再び男に言った。     
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