群青の幻影

11/22
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 私は自分の直感、自分の本能を信じた。これは一目惚れなどというものではないしましてや何らかの打算があるわけでもない、逃避でもない。ちょっとだけ天から幸運が与えられるみたいな、どこかギャンブルにおける幸運みたいな、幸運だけども危うい感覚の色が強く滲む奇妙な幸運──私はそれを逃したくないと思った。錯覚でもいい、人生というものに光が射したようなこの一瞬の時期を逃してはならない。  私はその日の夜、源三さんにメールを送った。 《こんばんは。長野葵です。突然のお願いを失礼致しますが、どうすれば高田さんの絵を拝見することができますでしょうか?》と。  本宅に飾ってあるもの以外の絵、という意味である。返信が送られてくる。 《画廊に二枚、残ってるはずですから。カンセラットという名の画廊にありますよ》  そして何度かメールをやり取りするうちに私たちは画廊カンセラットで会うことになり、落ち合う日時を決めたのだった。休日の午前十時。繁華街にある、その小さな狭い画廊で濃い茶色のジャケットを着た高田源三は私を待っていた。濃い青のシャツとのコントラストが私にはなぜか眩しく。私のなかで決意の炎が小さく燃えるのを、私はじっくりと味わいながら源三さんに相対していた。やがて寄り添うようにして彼のそばに身を置き、私はもう距離を我が物として、同じように彼に自由な距離を与える。私には少し先の未来が見えた。その上で受け入れることを決めた。どうなってもいい、と思ったのだ。  
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!