群青の幻影

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 冷蔵庫から冷えた安物白ワインを持ってきてグラスに注ぎ、一気に飲み干す。昨日の別れ際に私は思い切って言ったのだった。 「期待せずに言うんですけど、今取り組んでる絵を見たいです。正直に言えば描いてる作業も見たいです。わがままでしょうか」 「わがままだね。完成品なら勿論かまわないが、過程はまずいね。みっともないところも創作過程ではよくある。失敗してみないとわからないこともある。そうした過程を経ての完成品なわけで他人には見せたくないもんだよ」 「そうですか。諦めます」 「諦めた顔には見えないが」  うん。諦めてはいない。何かの弾みでチャンスが訪れるかもしれないではないか。こちらが用意をしていないとチャンスは取り逃がすものである。構えることが大事。私はさらにグラスへワインを注いで次の一杯を求めた。  明くる日、昼休みのことだった。携帯に留守電が入っていて確認すると由美からである。折り返し連絡がほしいとの内容で、私は昼食を済ませたあと彼女に電話を入れた。 「もしもし長野だけど何?」  急な用事だろうか。 「仕事が終わったらどこかで会いたいんだけど。話があるのよ」 「話の内容によるわね」 「楽しい話じゃないわ」  そうか。早いな。…予想よりずっと早い。  
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