群青の幻影

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 その旅館には小さな裏庭があり、奥の林を隔てる垣のようにして山茶花の花が咲き乱れていた。若緑の葉に浮かぶ濃い桃色と白色の花々は目を突き刺すほどの鮮やかさがあった。その光景を視界の隅に置きながら部屋に向かい、私達は三階の部屋に入ると熱く唇を重ねた。毎回同じことを繰り返してる。そのあとやることも大体は同じだ。でも中身は違った。少なくとも私は違う。四回目となる今は明確に罪の意識が私の脳裏にはある。最初はまったくなかったことだ。やってることは単に恋愛であり恋愛と言うしか他に言いようがない。ただ相手に奥さんと娘さんがいて世間的にはよくないこととされてる行為というだけ。その娘さんの由美が私の友人であるという点に引っ掛かりがあったとしてもそれはほんの些細な、ほんの小さなことだった。しかし今は違う。服を脱ぎ捨てること、体をひらくこと、そのいちいちに罪悪感があった。といって葛藤するほどのものではない。罪の意識よりも別の事柄の方が上回る。自分に対する興味、自分の変化に対して感じるおもしろさと根本的なところへの疑問である。  私が求めていたものはこれなのかと。これなの? こういうものだったの?と。で、残念ながらこれなのだ。私は生まれてからこんなに充実した日々を送ったことはなかった。二七にして、五度目の恋愛で、ようやく自分というものを知った気がする。つまり今まで知らなかったのだ。自分のことを。それが衝撃だった、じわじわと味わう衝撃だった。  
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