群青の幻影

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「由美とは会ってるのか?」 「いえ、月に何度か連絡を取り合うくらいで」 「どんな具合なのか何か聞いてないかね」  由美は実家で暮らしているので顔は合わせているはずだ。 「男関係ですか」 「それも含めた人間関係やら生活全体の話」 「そこまで深くは話しませんから」  源三さんの日常は朝から夕方まで別宅にあるアトリエに籠って創作に励む、というもの。ひとり娘の由美はこうした父親の生活を子供の頃から快く思っておらず、ずっと不満を抱いてきている。家族サービスといったものが父親サイドから殆どないからである。娘の誕生日もクリスマスも彼の生活ルーティーンは変わることなく、かろうじて父親名義のプレゼントはあるものの、用意しているのは母親だった。  源三さんがいま由美のことを気にかけているのは父親としてほんとうの気持ちも含んではいるのであろうが、私にはあやしく思える。ついでに私は別の疑問について尋ねてみる。高田家本宅の壁に飾ってあった幾つかの絵のうち、三つの作品に白い玉が描かれてあったのだ。絵の右端や左端に。大きさも色もだいたい同じ感じで。それは解釈の難しい物体だった。 「本宅に飾ってある絵に不思議な白い玉が描かれてあったんですけど、あれってどういう意味なんですか? 何かの暗喩でしょうか?」  
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