群青の幻影

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「ああ、あれはあのまま。人魂だよ。死者の魂として置いてる…それが売れなかった理由かもしれないね…。ともかくあの世の魂がこちらを見てる…とか、見ている側と交信してるとか…そんなイメージで描いてみたんだが…私が描いて人に受け入れられるものはもっと肉体的なものなんだよな」 「そうなんですか」  車は県境にあるパーキングを目指して進み続ける。そこで休憩をとるのがいつものスケジュールだった。私は画商に売れた源三さんの絵をもっと見てみたい、とは思う。まだ二枚しか目にしていないので。一応そう思いはする。でも画家としての高田源三に興味を抱いているわけではない。私が見ているのは雄としての彼だった。草原のなかでごろごろと体を地に横たえているライオン。それが私にとっての高田源三で、私はそんな男が欲しかったのだ。  行き交う車もまばらで、左に川がさまざまな表情を見せる道を、車は静かに何事もないことが当然であるかのように進んでいく。  
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