群青の幻影

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 翌日、勤めている健康食品会社から家に帰ってくると高田由美からメールが送られてきた。来週高田源三の個展が開かれるから一緒に行かないかという内容だった。さすがに気まずいので用事があると断りを返信する。源三さん本人からは何も聞かされていないのでスルーしてほしい事柄だと解釈するのが自然だろう。個展か。見たい気もするが、私がほんとうに見たいのは創作に取り組んでいる姿、絵を描いてる姿だった。高田源三が創作を行うリアルタイムを知りたい、その姿を目に焼き付けておきたいという気持ちが強くある。だっていつまでも続くわけではない関係だから。そして見たいものはもうひとつ。いま描いている作品だ。理想の女を主題にしているという、いま創作過程にある絵──抽象画となれば見てすぐ理解できるようなものではないかもしれない。もこもこした肉の塊に目がついてるとか。それでもかまわない、気になって仕方がないのだ。画家高田源三の歴史のなかで、私と付き合っている時期に製作された作品となるからである。 
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