群青の幻影

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 こうして高田家との付き合いを考えると去年の八月に由美と再会したことを運命に感じる。高校以来だから九年近い開きがあるわけだ。その頃は男と別れたばかりで私は何事にもやる気を失っていて、世の中って何だろ?恋愛を急かされるわりには得るものは少ないし、まるで幾ばくかの経済効果のために私生活まで働かされてるみたいだ、などとネガな心境に浸っていた時期だった。ふらっと自転車で遠出し何気なく立ち寄ったコンビニで由美とばったり再会して、確かにその瞬間は私のなかで久しぶりに花がひらいたような、明るい気持ちにさせられたものである。流れで家に呼ばれ「葵ちゃん、これ社交辞令じゃなくて本気で言ってるから」とまで言われると承諾するしかないではないか。  次の休みに家までタクシーを呼び、郊外にある高田家まで私は出向いたのだった。その時初めてたまたま本宅にいた源三さんに会い、挨拶を交わしたのだ。画家をやっている父親のことは話に聞くだけで私も取り立て興味がなかったので、実物を目にしてどきっとしたことは私自身が驚いた。そういうどきっとする感覚は初めてだった。どん、と存在感というか存在そのものが体に食い込んでくるような、体に入ってくるような、それは新鮮な驚きだった。どう見ても白髪の目立つ親父なのに威厳というものがなく、代わりにこちらに自然な雰囲気で踏み込んでくる力が強い。  
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