ぼく

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「君の名前はなぁに?」 幼い君僕にそう聞いた。 「僕?僕はね...」 目覚めるとそこはいつもの寝床だった。 大きな気の小さな穴に僕はいた。 落ち葉で作ったフカフカのベッドに、フカフカの布団。 贅沢すぎるくらいだ。 僕は1人。 家族はいない。ただ1人でいる鬼。 でも寂しくなんかない。 木々は優しいし、動物たちも仲良くしてくれる。 それだけで満足じゃないか。 そう、満足だ。寂しくなんかない。 そう心に言い聞かせると何故か本当に寂しくなくなった気がした。 僕が生まれて16年。 僕が1人になって16年。 なんの変化もなかったその長い年月は、ある日忽然と変わっていく。 季節が移り変わるように... 森に女の子がやってきたらしい。 動物達は騒いでいて、僕はそれを宥めるのに必死だった。 人間は嫌いだ。 木々を倒し、動物を狩る。 自分勝手に利用する。 だから森が騒ぐ。誰かが追い出すべきだと。 「....僕がいくよ....」 僕は1人じゃない。けど、盾になるのは僕がいいだろう。 だって僕は森でただ1人の鬼なのだから。 蹲っていたその子にちかずくと彼女はぱたりと泣き止んでじっとこちらを見ていた。 僕は睨む。出て行けと思いながら。 彼女は丸い目でこちらを見ていると思うと、 「あなたの名前はなぁに?」 と聞いてきた。 僕は思わず口ごもってしまった。 僕を怖がらないなんて... どうしていいのかわからなくなる。 「えっえっと」 「??」 「ぼくは...鬼だよ。」 しっかりと目を合わせて、僕は彼女を見つめ返した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!