16人が本棚に入れています
本棚に追加
{1}
「…ねぇ。A子?」
『………ハッ!!』
俺は…
誰かの声を聞いたような気がして、ハッと目を覚ました。
「………」
今、俺は…
朝の通勤バスに揺られていた…。
イカンイカン。
どうやら、いつの間にやらつい居眠りをしてしまったようだ…。
と、
後ろの席の女子学生らしき声が耳に飛び込んで来た。
どうやら…
俺は、その女子学生たちの会話の声に、
目を覚ましたみたいだ。
「…うん?何?B子」
「A子。それって、さ…。もしかして、リストカット?」
『は?』
俺は『おいおい…。
何て軽いノリで凄い事聞いてるんだよ!マズイだろ』と、内心で思ってしまった。
とっ、次の瞬間!
「違うよ。B子。
これ、カスタネットだよ」
『な、何じゃっ?!』
俺が、気付かれないようチラッと後ろを見たら…
本当に…
二人組の女子学生の一人が、カスタネットを小さな布袋から取り出し、もう一人に見せていた。
恐らく音楽系の部活か何かに使うのだろう。
『何だよ…。驚かしやがって』
しかし、まあ…
いくら間違うにしたって
『カスタネット』を…
『リストカット』って…
確かに言葉のリズムは、似てると言えば、似てない事もないが…。
『何て…
器用な、言い間違い方だろ』
俺は、一人でフッと笑ってしまった。
そういや…
『言い間違い』と言えば…
俺の弟は小学生の時分、なぜか『ミケン(眉間)』の事を『コカン(股間?)』と言っていた。
で、俺も弟も小学生だった、ある日の事。
学校で、ちょっとイヤな事が有った俺は結構、ケワシイ表情で帰宅したのだが…
「ただいま…」
と、弟が
「お帰りなさぁーい!あれ?アニキどうした?
『コカン』にシワ寄せて」
『おいおい…。
それを言うなら「ミケンにシワ寄せて」だろうが…』
俺は、バスに揺られながら再びフッと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!