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 仕事が終わると、店長が私を裏に呼んだ。 「悪かったな、今日」  どうやらそれは田島のことを指しているようだった。 「いや、いつものことだしいいよ。なんだかんだで定時に仕込みも終わったし、今日は店長も残業しなくていいでしょ」  店長なのだから、シフト上の時間とは関係なく残るのが当たり前だと思っている店員がほとんどの中、店長が少しでも早く帰れるようにと働く人は少ない。店長だって若くはないし、休みは少ないのだからと思うのだが、時給で働く人間はいればいるだけお金をもらえると思うところもあるようだ。私が定時を越えても仕込みをしていると、お局は決まって「あとやっとくから上がっていいよ」と言う。自分だって時間内でしかやらないのだから、残ればすでに残業している店長にその仕事は回されていく。何とも言いようのない怒りは、そうやってずっと降り積もっていた。 「悪いな、いつも」 「いいって、好きでやってる仕事だもん」  私は後ろ手に手を振って、お疲れ様でーすと言って店を出た。  気持ちを切り替えて新しいお客さんも増えて、心機一転のつもりで始まった今日も、帰りにはいつも通りの疲労がたまってしまった。少しばかり救われるのは、ああして店長が私に気を配ってくれるお陰だ。お局は歴が長いというだけで、上司でも何でもない。それでも機嫌を損ねないように働くことが、自分のストレスを減らすものなのだとどこかで割り切れたらいいのに、と自分にげんなりする。できればいいのに――それは、できないと思っているのと同義だ。同じルーティンの一部にはこれも含まれているのだ。もう30代も半ばに入るというのに、社会人は大変だなぁなんてぼやいているのだから、これはまた気楽なもんだなと思えて笑ってしまった。
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