本編

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 と、波瀬川から流れ込む、金剛寺川の河川敷を指差した。 「ん? どうした」  そこは、背の高い葦が群生している。指差した先がよく見えなかった。 「あそこでございます。尋常な気配ではありませぬ」  重太郎は姿勢を低くすると、葦の隙間から男達が何やら争っているのが見えた。 「喧嘩か? いや、違うな」  その気配を、重太郎も察した。次の瞬間、耳を劈く絶叫が聞こえた。男のものだ。重太郎は喜佐を一瞥して頷くと、咄嗟に駆けだしていた。  何故、そうしたのか。自分でも判らなかった。異変を前に、素通りできるほど厚顔無恥ではない。そしてそれ以上に、手裏剣を使う姉さん女房の喜佐の前で、いい顔がしたいだけだったからかもしれない。  青々とした葦を掻き分けると、そこには三人の男がいた。  浪人だ。すぐに判った。垢や埃にまみれ着古した着物に、伸び乱れた髷。そう認識した時、重太郎の鼓動が高鳴った。  三人。しかも、血刀を手にしている。恐怖。重太郎の全身に、恐れが駆け走った。  浪人は、歩く災厄。夜須藩ではその浪人の流入を禁止し、斬り捨てにしても罪に問われないと定められているほどの悪党集団である。 「ほう。何やらお客さんの御到着だぜ」     
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