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三人の浪人が、不敵に笑む。一人が足元に目をやった。百姓風の男が、袈裟斬りにされ斃れていた。そして、側には女。若い。まだ十三かそこらだ。放心状態で、へたり込んでいる。
「何をしている」
重太郎が糺した。しかし、三人は笑うだけで、相手にもしない。
「夜須の侍は腰抜けが多いというが、こいつは骨がありそうだな」
「そうそう。奴らは見て見ぬ振りをするからよ」
三人から、酒気を感じた。目も尋常な色をしていない。
「何をしていると訊いているのだ」
「へっ。何って、その小娘を手籠めにしようとしたら、親父がじゃましたので斬ったのよ」
「そうよ。俺はまだ蕾が開く前の花が好きでね。その花を手折って、無理矢理に花弁を開かせるのが趣味なのさ」
高笑いする浪人の前に、重太郎の恐れは怒りによって払拭れていた。
「おぬし等は浪人だな?」
「おう、浪人さ。生まれながらのな」
「浪人は、夜須に入る事はまかりならん」
「って、事になっているみたいだな。ただ、城下に入っても何も言われないぜ」
「夜須藩士は腰抜けだからな」
重太郎は、腰の大刀に手を伸ばした。
「やる気か、お前」
重太郎は頷いた。伊武派壱刀流を学び、お勤めの傍らで長柄町で道場を開いている。剣客としての自負はある。その自分が、この惨状を前にして、一刀を抜かぬ事は出来ない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
重太郎がまずした事は、葦を背にする事だった。
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