本編

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 伊武派壱刀流の秘奥、瞑深(めいしん)。精神を整え、刀を身体の一部として一体化させる瞑想術である。  右の浪人。切り込んできた。気付いた時には、刃は寸前だった。  鼻先で躱し、刀を振った。そして、左の浪人。身を低くして、刀を突き出した。  二人の男が、声にならぬ声を挙げて崩れ落ちる。吹き出した血の臭いで、自分が二人を斃したのだと気付いた。  全身から汗が噴き出していた。瞑深の効果はあったようだが、大して動いてもいないのに息が苦しく、肩が意に反して大きく上下している。 「見掛けによらずやるね」  頭領格の男が言った。仲間を二人斬られても、薄ら笑みを浮かべている。 「だがな、俺はそう簡単にはいかんよ」  頭領格が抜いた。刃の光が、他の者とは違うように思えた。  頭領格は下段。重太郎は、正眼のままだ。 (くそっ……)  息が苦しい。必死で整えようと思うが、思い通りにはならない。  焦り。吹き出した汗が目に入り、沁みる。  瞑深をしようと念じた。しかし、中々心気が整わない。  頭領格が、笑んだまま踏み出す。重太郎は地擦りで下がる。頭領格の圧力がそうさせた。  だが、背後は葦。重太郎は舌打ちをした。必勝の策が仇となったようだ。     
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