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頭領格の剣氣が、凄まじかった。対峙しているだけでも、身体が重くなる。刀を構えているだけでもやっとなほどだ。
何人も人を斬った者が持つ、魔性の剣。自分とは違う。棲む世界が、そもそも違うのだ。
頭領格が、下段から構えを八双に変化させると、気勢を挙げて猛進してきた。
重太郎も踏み出そうとした。が、足が地中から這えた無数の手に掴まれているかのように見えた。
そして、次の瞬間には転がっていた。斬光が、目の前を過ぎていく。転がる事で避けたのだ。本能だろう。起き上がりに一閃されたが、何とか立ち上がる事が出来た。
「小癪な奴よ。ちょこまかと……」
そう言いながらも、頭領格は余裕の表情だった。獲物を前にして、舌なめずりする獣。まさしくその顔だ。
重太郎は及び腰に構えた。斬られたのは肩口。血が着物に滲んでいる。
「そろそろ死ね」
大上段からの一撃。その時だった。
頭領格の動きが止まるやいなや、背中を仰け反らせた。そして、その顔はみるみる紅潮し、怒りの表情に変わった。
「何、だと?」
振り返る。その視線の先。着物の袖を絞った喜佐が、そこに立っていた。
喜佐は手を振り下ろした。無数の光。それは、空を斬り裂く音を立て飛来した。頭領格の身体に、何かが次々と突き刺さる。
「この野郎」
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