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雫の空音
「待たせて悪かった。ーー僕と結婚してください」
「……え?」
彼は一体何を言ったのだろう。聞こえていたはずなのに、全く頭に入ってこない。
反応がない私に彼は、もう一度繰り返す。
「僕と結婚をしてください」
繰り返された言葉は、やっと私の心へ届く。
(結婚、籍を入れて共に生きていくこと。本当にその結婚であっているの?)
いやもしかしたら、勘違いで聞き間違いの可能性もある。けれど私には結婚の願望はなかったはずだけども……。
脳内で混乱する私の手をとり、見たことのない指輪を左の薬指にゆっくりはめた。そして彼は再び言った。
「一緒に暮らして、一緒に歳を重ねよう。僕には君が必要で大切な人だ。結婚しよう」
私の目から悲しみではない、雫が落ちていく。
「……はい、喜んでお受けします」
私の左手には雫よりも煌めく石があった。
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