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「緑、綺麗ですよね。今日の透き通った青空にぴったりです」
「え?」
「見とれる気持ち、わかりますよ」
私の目に映る男性は口元に笑みを浮かべ、カフェの外の緑を眩しそうに見つめる。笑顔を浮かべているにも関わらず、大きめのフレームの黒縁メガネと少し長めの癖のある髪で顔に陰を落としているせいか、その表情は少し暗い印象を受けた。
スーツ姿の彼は黒を主としたネクタイをしていて、なんとなくの雰囲気からも結婚式に来たというわけではなさそうだった。もしかしたら、私と同じような“用事”で来たのかもしれない。
……まさか、“相手”ではないよね? ……いや、そんな偶然はさすがにないはずだ。
黒縁メガネやスーツが本当に似合っているからか、彼を纏う雰囲気や空気感に惹かれ、思わず彼のことを見つめてしまう。すると、私の視線に気づいたのか、男性の目線が私に移った。黒縁メガネの向こうにある黒い瞳が私を捕らえた瞬間、カフェの入り口から聞き慣れた叔母……光代(みつよ)さんの声が耳に入ってきた。
「琴音(ことね)! 何をしてるの? 時間も近づいてるんだから早く戻りなさい」
「あっ、はい! あの、本当にありがとうございました!」
私は男性に頭を下げ、履き慣れないヒールのある靴で転ばないように叔母のもとへ戻った。
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