0人が本棚に入れています
本棚に追加
眠りたくない。眠ったら、きっとこの夢からは醒めてしまう。
あかねは何度も、必死に自分の目を擦った。
「ああ、だめだよ。そんなに擦ったら、腫れてしまう」
ユウヤがやんわりとその手をつかみ、あかねの悪あがきを制する。
「だって、まだあなたと離れたくないの」
「そうなのかい? 大丈夫、目が覚めればまた会えるよ」
「そんなことない。眠ったら、待っているのはつまらない現実だもの」
「ふふ、おかしなことを言うね。眠ったら、現実を見るなんて」
片手を口元に、彼が上品に微笑む。あかねはその甘いマスクを、いつまでだって眺めていたかった。
「ほら、我慢しないで。ゆっくりおやすみ」
優しい悪魔が魅惑の笑みで誘いかける。甘える気持ちと抗う気持ちがあかねのなかで交錯する。
眠りたくない、眠りたい、まだ彼と、もう1度眠ればーー意識が白濁していく。しばらく自分の瞼と格闘してから、とうとうあかねは眠りのなかへ落ちてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!