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私は多分知っている。多分、ちゃんとわかっている。
椿ちゃんがもういないことは、なんとなくわかる。
けれど──
「まだ無理だよ……」
認めたくない。
まだ死なせたくない。
これは私の身勝手だけど、それでもだ。
椿ちゃんを、まだ生かせてあげたいのだ。
「……それはいつ終わるんだ?」
「そんなの……っ。今はまだ……」
「じゃあ、今日終わらせるんだ」
海は──言う。
「『それ』をしていいのは、お前か、椿山に明確な未練がある時だけだ。椿山は僕がフッた。そしてお前は──この数週間、なにもしていない」
「──海は椿ちゃんと、一緒にいたくないの? 椿ちゃんな死んでもいいの?」
「俺には見えないんだよ!」
「────」
「美亜にはできるのかもしれないけど、俺にはできないんだ。俺の中での椿山椿はもう──不幸な交通事故で亡くなってしまった、大切な親友なんだよ! もうここにはいないひとなんだよ!」
私の背中で握られている海の拳が、硬くなる。
それでも耐えられずに、両目から流れ落ちる涙。
未練。
椿ちゃんがやり残したこと。私がやり残したこと。
……椿ちゃんが何を思っているのかは知らないけれど、私ははっきりとわかっている。
「きちんと……お別れしたい」
私は呟く。
死……者を、この世に引き留める理由としてはひどく身勝手で救い用もないし、つまらない理由だ。
でも多分椿ちゃんは、私の人生で一番の親友だ。
誇張なんてしていない。自己満足でもない。
お別れをせずに離れていい友達ではないのだ。
椿ちゃんが、海の肩の向こうに現れる。
さっきまで普通に見えていたのに、なぜかそれだけで涙を堪えられない。
「椿ちゃん……、ごめんね。私のわがままで……」
親友が首を横に振る。
──なんだか、今までとは違う感覚だ。
椿ちゃんが、私が思ってもいない行動をとっている。
「ごめんね……、海が、ずっと想ってたのに、フッちゃって……」
優しく、微笑んで、首を振ってくれる。
「ちゃんとお別れできなくて……ご、めん、ね」
椿ちゃんの口が開く。
声は聞こえないけれど──『今』と言った気がした。
「……うん! 今、ここで。言うよ──ばいばい、大好きだよ」
「椿山、そこにいるのか?」
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