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「なにすんのよぉ……海ぃ」
不満そうにそう呟く彼女の後ろを、トラックが大きな音を立てて通り抜ける。
もしもあのまま進んでいたら──
……僕は手を離し、平静に、
「いや、たまたま見かけたから。こんなところでどうしたんだ?」
嘘だ。本当はつけてきた。
さっき、彼女がふらふらと頼りなく歩いているのを見たので、心配になったのだ。
「別に。ただ、ちょっと交差点に立ちたかっただけ」
「……危ないだろ」
「大丈夫だよ。椿ちゃんもやったらしいし。それに、椿ちゃんが立ってたんだもん」
「…………」
──俺はどうすればいい。
このまま、好きなひとが親友の幻覚に囚われて廃れていく姿を、俺は見たいのか。
無論そんなわけはない。
しかし──今真実を告げたら、彼女はどうなる。
右から左に流すかもしれないし、怒るかもしれない。あるいは、そのショックで死を選ぶかもしれない。
「……椿はどんな顔だった?」
「え? ……寂しそうにしてた」
「そうか……」
「あと……」
「…………」
「『これ』を、言ってくれって」
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