それぞれの一歩

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「…………」  俺の問いに、美亜は固まる。  何かを言いたいのだろうが、声にならない声だけが、彼女の口腔をこだましている。  椿山は、生きていた頃から僕のことが好きだったらしい。そして美亜が聞いたのは、椿山そのものの声だ。  だったらそれは生前の彼女の言葉で──彼女の本心なのだろう。  そんな事実を──  彼女の生が終わったこの場所で聞くことになるなんて。 「出来過ぎだよな……」  声になっていたかどうかもあやしい言葉で、そう呟いた。  そしてそれに呼応するように。 「私は……海にも椿ちゃんにも、幸せになってほしい」  ひどく弱々しく。  けれど強い覚悟を抱いて。  美亜は言った。  美亜がそうなら俺は── 「俺は、俺と美亜で幸せになりたい」 「嘘だよ……」  俺の決意をしかし美亜はあっさりと否定する。 「君はこの前から、私を何も見てくれない。三人が並んでいる時だって、私じゃなく反対の椿ちゃんしか見てくれなかった──椿ちゃんのことが好きだからでしょ?」  ──俺のせいだ。  俺がもっとちゃんと向き合っていれば、こんなことにはならなかったんだ。  彼女のが悲しむのがいやだとか、そんな綺麗事で飾って、本当は告げるのが怖かっただけなのに。  ──真実を告げたら、美亜はどうなってしまうのか。  俺は彼女の手を強く握った。
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