それぞれの一歩

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「…………」  握っていた手を離し、俯いて言葉が出ない美亜を、俺は強く抱きしめる。  この行動に大きな意図はない。  ただ、目の前の美亜の体が震えているのを、黙って見ていられなかっただけだ。 「俺は美亜が好きだ。だから椿山とは付き合えない。だからこうして抱きしめてるんだ」  この言葉に嘘偽りはない。  ただ、美亜が俺のことを嫌っていた時に死にたくなるだけ──そんなことは死んでもできないが。 「もう一度言うぞ。いや何度でも。椿山椿はここで、暴走した乗用車に撥ねられて死んでいるんだ」 「…………」
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