第九章

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 絶対に、青山くんの身の上に何かがあった。それを、私には教えてくれない。私に教えられないほどの、一体、何があったというのだろう。いずれ説明するとメールで返してくれていたけれど、いつもと違う青山くんを目の前にしてしまうと、心配で仕方がなくなる。  …そっか。ここには親戚のひとも他のバイトのひとたちもいる。帰りに私の家に寄ってもらって、聞き出してみよう。私はそんなふうに決めて、気を取り直した。  春田くんも、横川くんも、槙田くんも、青山くんの従妹の綾乃ちゃんも、みんな青山くんの様子には気づいているようだったけれど、気を遣っているのか、お昼の休憩のときにも別段、何があったかを訊いて来るわけではなく、ときどき青山くんのことをチラチラと横目で見るだけで、みんなゲームの話などで盛り上がったりしている。  青山くんと私だけが会話に入らずに少し離れた場所にいた。早く今日の仕事が終わらないかな、とそればかり考えていた。  夕方、ようやく仕事が終わる。私の最寄駅まで戻って来たとき、先に「じゃあ」と言ったのは青山くんだった。それまでなら勝手に自分も降りて私の家に来るのに、座っていた座席から立とうともしない。私は青山くんのTシャツの袖を引っ張った。
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