第一章

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 ドカ雪が降った十二月のある日。  醤油が切れていて、買いに出掛けようとして家を出ると、私の家の前に、紺色の物体がゴロリと落ちていた。  それは人型をしていた。『出』という字を連想させる、もしくは、着地に失敗して全身を見事に路面に殴打したカエルの形で、うつ伏せになっていた。  一見して、クラスで人気者の青山和樹という男子の髪型と背格好によく似ていると思ったけれど、まさか、彼がこんなところに倒れているわけがない、と私は周囲を見渡した。  こんなときに限って、都会でもないドカ雪の町に、通行人は見当たらない。しかも私の家は、メイン通りから曲がった比較的狭い路地。  この人型の物体を、私が何とかしなければいけないの?  自然と、眉間に皺が寄ったのが自分でもわかった。私は醤油を買いに行きたいだけなのである。  とりあえず、裏返し、いや、表返しにしてみよう。
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