第九章

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「おはよう」 「あ、おはよう。あれ? 青山は?」  春田くんが私に訊ねる。 「なんかね、今日は急用があって休みだって」 「へえ」  みんなあまり気に留めていない様子だった。  けれども、次の日も青山くんはバイトを休んだ。何かあったのかと心配になって訊いてみても、メールの返信は、 〈ごめん、ちょっと急用で〉  だけで、アオヤマファームのひとたちも青山家の親戚のひとたちも、 「仕事も彼女もホッポリ出して何してるんだ、あいつは」  と怒っている。さすがに他のみんなも、 「青山、どうしたの?」  と私に訊ねて来る。けれど、当の私が一番知りたい。  土曜日にメールをしても、 〈ごめん、手が離せない〉  だとか、 〈いずれ説明するからいまは待って〉  だとか、要領を得ない返事ばかりだった。親戚のひとたちも何も言っていなかったから、青山くんのお父さんに何かあったわけでもなさそうだった。 〈具合でも悪いの?〉  と訊いてみても、 〈いたって元気だからそういう心配は無用だよ〉  と返って来る。『急用』が何なのか、さっぱり腑に落ちなかった。
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