第九章

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 週が明けて月曜日、ようやくバイトに顔を出した青山くんだったが、どこか上の空で、ぼんやりしていて、話しかけても「ああ」とか「うん」とかしか言わない。  仕事もあまり手につかない様子で、それぞれの大きさごとに用意されたケースの中に、違う大きさのイモを入れてしまい、親戚のひとから怒られるのが一度や二度じゃなかった。 「ねえ、一体、どうしたの? 具合でも悪いの?」  お昼の休憩の少し前、少し手が空いたときに訊ねると、青山くんは一瞬、困った顔をしてから、わざとらしい作り笑いで私を見た。 「何でもないって。やだなー、有沙」  そんな顔、いままで一度だって見たことない。いつも私に接するときは、ありのままの、自然体の青山くんだったのに。そんな顔、向けて欲しくなかった。  途端に、説明のつかないような寂しさが私を襲った。 「そう、何でもないなら、いいや」  とだけ言って仕事に戻る。そのときちょっとだけ、青山くんは悲しそうな顔をしたのを、私は見逃さなかった。
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