第九章

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 思い切って青山くんの家に行ってみようかとも考えた。でも、醒めた目で見られて、何で来たの、なんて言われたら耐えられない。怖くて青山くんの家になんか行けない。  眠れなかった。嫌な考えが私の中をぐるぐるして、私をまどろませてはくれない。朝方になってようやくうとうとしかけたけれど、家の外を大型車らしい車が通って行った音で眠気を覚まされ、結局一睡も出来ないまま朝を迎えた。  洗面所の鏡に映る私の顔は悲惨なものだった。目の下にクマが出来て、頬もむくんでいた。なるべくお父さんと顔を合わせたくはなかったのだけれど、食卓で向かい合えば否応なしに顔を見られてしまう。 「おまえ、どうした? その顔」 「え、あ、うん、ちょっと」 「青山くんが何かしたのか?」  私は思い切り首を横に振った。しかし、それがいけなかった。お父さんは疑う目を私に向けた。 「何だ、言ってみろ。場合によっちゃ、ただではおかない」  娘を思う父親の形相は朝から見たい顔じゃない。
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