第九章

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「有沙」  しばらく考えていたお父さんが私を呼ぶ。 「うん?」  顔を向けると、さっきよりも真剣さを増したお父さんの顔があった。 「待ってやれ」 「え?」 「男が何かを悩んでいるときは、じっと待ってやるんだ。おまえたちは高校三年生だ。将来のことを、真剣に考えなくてはいけない時期なんだ。思う存分、悩ませてやることが、いまのおまえに出来ることだと、お父さんは思う」 「お父さんにもあった? 将来のことを悩んだ時期」 「あるに決まってる。お父さんは大学へ進学したが、知っての通り働きながら夜間の方へ進んだ。経済的にそうなった。昼間の大学へ行くのは無理だったんだ。でも、おまえの亡くなったお祖父ちゃんは、俺を昼間に通わせたくて、お金は何とかする、って言ってくれた。悩んだよ、相当。願書を取り寄せるギリギリの時期まで、悩んださ」 「そう、だったんだ…」
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