8人が本棚に入れています
本棚に追加
「有沙」
しばらく考えていたお父さんが私を呼ぶ。
「うん?」
顔を向けると、さっきよりも真剣さを増したお父さんの顔があった。
「待ってやれ」
「え?」
「男が何かを悩んでいるときは、じっと待ってやるんだ。おまえたちは高校三年生だ。将来のことを、真剣に考えなくてはいけない時期なんだ。思う存分、悩ませてやることが、いまのおまえに出来ることだと、お父さんは思う」
「お父さんにもあった? 将来のことを悩んだ時期」
「あるに決まってる。お父さんは大学へ進学したが、知っての通り働きながら夜間の方へ進んだ。経済的にそうなった。昼間の大学へ行くのは無理だったんだ。でも、おまえの亡くなったお祖父ちゃんは、俺を昼間に通わせたくて、お金は何とかする、って言ってくれた。悩んだよ、相当。願書を取り寄せるギリギリの時期まで、悩んださ」
「そう、だったんだ…」
最初のコメントを投稿しよう!