老の坂

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老の坂

 京都駅から十五キロほど西、京都市と亀岡市との間に老ノ坂という坂がある。明智光秀が信長を討つことを心に決めた場所であることから、もう引き返すことができないことの象徴ともいわれる坂だ。  俺は今、その坂を下っている。  あのときには咲いていなかった桜も、今はもう満開だ。桜が咲き誇る夕暮れの中、俺は彼女に語りかける。 「なあ、佐藤」 「何?」 「『やっちゃん』のことだが……。俺は、多分、誰が『やっちゃん』なのか分かったよ」    *  久しぶりに踏みしめる京都の地。転勤することになると聞いてはいたが、まさか京都になるとは。生まれ育った街へまた戻ってくることになるとは思わなかった。京都を出て二十年。今でも頻繁に会う同期もいれば、一切音沙汰の無くなった部活の仲間もいれば、亡くなってしまった近所の方もいる。東京へ行ってから一度も顔を見てない人達と久しぶりに会うのも悪くない。近いうちに高校の同窓会もある。ちょうどいいときに戻ってきたとでも言うべきか。     
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