第1章

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第1章

一  その国の新年は、梅の開花と共に始まる。お宮の中庭の真ん中に、樹齢の知られない古木が生えており、その蕾が開く日が元旦となる。  その年開いた最初の梅花を見つけたのは、茶色い巻き毛の少女だった。蕾がふくらみ始めてから、彼女は毎朝かかさず見に来ていたのだ。早朝の寒さにもかかわらず、寝間着のままで渡り廊下を裸足で降りると、まっすぐに梅の木に向かう。 「咲いてる」  ふうん、と言って、何度か頷く。 「今年は紅か」  少しの間開いたばかりの花に見入っていると、 「キリ」  小さな声で名前を呼ばれた。振り返ると、渡り廊下にきちんと身支度を整えた長い黒髪の少女が立っている。 「サク!」  巻き毛の少女が声を張り上げ手を振る。サクと呼ばれた少女は人差し指を口にあて、シーッと息を吐いた。それに構わず、キリは大声で「紅だよ!」と叫んだ。  サクは小さくため息をつくと、こくりと頷いた。そして視線をキリの足に注ぎ、次いで髪の毛に移す。 「わかってるよ」  キリは渡り廊下へ戻りながら応えた。 「せめて下駄を履きなさいって言うんでしょ。寝癖だらけなのもわかってる。はやく見に来たかったの」  肩を並べて二人は歩き出した。     
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