第1章

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 「人を操る」という表現をしたのは、彼女たちの望み、願い、命令を、耳にした者は拒否する術を持たないからだが、「操る」という表現が適切でないかもしれないとした理由は、聞いた者は主体的に行動しているつもりだというところにある。  そしてこの力は、自分自身やこの血筋の者、つまり母親、祖母、娘にあたる者、には通じない。サクがどんなに絶望して、「もう死にたい」と言っても、言っただけでは死ななかった。  サクは、この力をほとんど呪いだと思っていた。望まずして人に呪いをかけてしまう呪いだ。本当にはそう思っていないことを、つい口にしてしまうということは、多い。感情に任せて口走り、何度痛い目をみたことか。何度人を傷つけてしまったか。数え上げたらきりがない。  もっと嫌なのは、操ってしまったときの相手の顔だった。一瞬、ほんの一瞬だが、目ががらんどうになった。あれは死人の目だ。見るたびに怖気が湧いた。  そのため、成長するにつれて、サクは口数が少なくなった。必要なこと以外は喋らなくなった。吟味してから口を開くのでテンポが遅く、おっとりとしたお姫さまと見られがちだが、性格は勝気な方だった。だから余計に、歯がゆい思いをしていた。     
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