第1章

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三  梅が咲くと、お宮の中は急に時計が動き始めたかのようにバタバタと人の往来が激しくなる。  梅が咲いたその日が新年の最初の日になるので、その日の早朝には都に住む人々と各村へ向けて年が明けたことの報告に早馬が放たれる。そして昼までには都中の人間がお宮の前の広場に集まり、「新年最初の宮からの言葉」を賜る(「声」が聞こえる必要があるので、何回にも分けられる)。  赤ん坊は母親に抱かれ、年寄りや病人など動けない者も荷車に乗せられてやってくるから、大変な騒ぎだ。広場には予め用意されていた寒さを凌ぐためのテントが大急ぎで建てられ、火が炊かれる。   互いに新年のあいさつを交わす人々の声、少女たちの笑い声、歌を歌いだす者、炊き出しの汁物や炊きたてのお米と炭の香り、暖をとるための火に芋や栗を投げ入れそれがはぜる音、焼けたよという言葉に駆け寄る子どもたち。  菓子を売ったり畑で採れた野菜を売ったりと、ちゃっかり商売をしている者もいる(これが楽しみで来ている者も多いので、もちろん禁じられてはいない)。まるでお祭りだ。     
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