第1章

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「まだかまだかと待ち遠しかったけど、咲いちゃうと忙しくなるね。私もうだいたい荷造りは済んでるよ。蕾が色づき始めた頃から始めたの。去年はのんびりしてたら忙しくて忘れ物が多かったから。キボリ村に行くの、楽しみだなぁ。今年は何を彫らせてもらおうかな。サクはどの村に行くのが楽しみ?」  ぺらぺらと淀みなく喋るキリとは裏腹に、極端に口数が少ないサクは少し考えてから、 「カミスキ」 と答えた。 「カミスキ村かぁ。サク、紙を梳くのが上手だものね。私はダメ、どうしてもでこぼこになっちゃうんだもの」  キリは、歩く自分の裸足を見ながら、どうしたら滑らかに作れるのかなぁ、と呟き、あ、そういえば、と、足を止めずに隣の少女に視線を移した。渡り廊下はとっくに渡りきって、西棟の外廊下を歩んでいる。 「大宮さまにご報告に行くの?」  サクが頷く。 「宮さまじゃなくて?」 「母さまは、きっとまだ眠っているわ」 と、サクの足が廊下の突き当たり、白糸の滝に松がかかる絵が描かれた襖の前で止まった。キリが三歩ほど後ろに下がる。 「…………」  サクは振り返ると、キリの頭に視線をやった。 「うん? ……あっ!」  迷いなく歩むサクについつい付いてきてしまって、自分がまだ寝間着姿だということを忘れていた。 「着替えてくる!」  バタバタと駆けていくキリを見送ると、サクは中へ静かに声をかけた。 「おはようございます、おばあさま。騒がしくして申し訳ありません」 「お入りなさい」  許しを得て中へ入ると、大宮は茶を入れているところだった。     
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