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「座って」
きちんと正座をしたサクの前に、大宮は湯気の上がる湯のみを置く。熱いお茶はかじかんだ手にとても熱かったが、やがて心地よい温かさになった。
「おばあさま、梅が咲きました」
大宮は微笑むと、言った。
「今年は紅だそうね」
サクが目を丸くする。それを見ると大宮は、今度はからからと声を立てて笑った。
「キリが大きな声で紅と言ったそうではないの。テイが聞いていて、教えてくれたのよ。お湯を頼んだものだから」
サクは苦笑いをした。キリはきっと後で大目玉だろう。テイがあの振る舞いを見て見ぬふりをするはずがない。
「さて、紅ね」
大宮はサクの目をじっとのぞき込むようにすると、
「紅の時はどんなふうに歌うのが良いのだったかしらね。覚えている? ちょっと歌ってみましょうか」
「はい、おばあさま」
そのままサクは小一時間ほど歌の練習をし、大宮の部屋を出たとたんにお腹が鳴った。お腹が空いたな、朝餉がいつもの倍は食べられそう、と考えていると、
「サクー!」
キリがバタバタと廊下を走ってやってきた。
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