第1章

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二   オン山は都から遠く北にそびえている。頂上から三分の一くらいまでは白く雪に覆われ、そこから下は茶と緑が混じり合っている。足元は一面の緑、緑、緑。長い裾野いっぱいに樹海が広がっているのだ。東西に延びた裾野が限りなく平らになるところで海が現れるが、そこまでは視界には入らない。世界地図で見ると、この山はちょうど大陸の隅に長い線を引っ張っているように見えるだろう。  実際、国の境界線であり、国民にとっては世界の境界線だった。山の向こうは「死」即ち「無」だと考えられていた。自分達の今いる土地のみが生ける者の世界で、山の向こうには何もない。「何もない」ということがいったいどういうことなのか、考えてみた者はいない。ましてあちら側に他に国があり人間が住んでいるなどとは彼らにとっては想像もできないことだ。太陽は毎日海の彼方から新しく生まれ、山の向こうに落ちて死ぬ。  彼らの使用している地図は、上方にオン山が描かれ、その下には樹海が広がり、あとは平野の中に小さな山がいくつか、そして大体の見当で都と九つの村が書かれ、左右と下は海。下の右の方に小さな島がくっついている。     
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