第1章

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 サクもそういった地図を1つ持っていた。一方で彼女は、「世界地図」も持っていた。父親がくれたものだ。これは秘密の贈り物だった。誰にも見せてはいけないと言われたが、キリにだけは見せても良かった。ふたりは時々この地図をながめ、想像の冒険をして遊んだ。  この国には名前がない。大昔にはあったのだろうが、皆忘れてしまった。他に国がないからだ。この国を統べる血筋に、サクは生まれた。  「一」という数字は、この国では神聖な数字とされている。太陽、国、都、これらは皆ひとつしかない。この国を統べる者も、「ひとり」であることが望まれた。君臨するのはひとり。世継ぎを産むのもひとり。生まれてくる子は必ずひとりであり、必ず女児である。もちろんひとりで子どもを産めるはずはない。父親は存在するが、その存在は隠され、役目を終えた後は記憶を奪われ帰される。  また、たったひとりの代わりのない存在を名前で呼ぶことは不敬とされた。産まれた世継ぎは「姫宮」と呼ばれる。その母親は姫宮が産まれたその瞬間から「宮」となり、世代交代もこの時に為される。それまで「宮」だった者は「大宮」となり、その上は「内宮」、それより上の世代はこのときにはもう寿命が尽きているので、すべて「外宮」と呼ばれる。名前はこの「外宮」となり、記録される時に初めて必要となってくる。  ちなみに「お宮」といった場合は彼女達の住む屋敷を指す。  国民が彼女たちを自らの王とも神とも崇める理由は3つあった。     
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