第1章

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 例えばサクが何気なく「お菓子が食べたいな」とつぶやいたとする。それを誰かが聞いていたら、その誰かは盗んででも何らかのお菓子を提供するだろう。  また、妊婦に「今すぐ産まれればいいのに」と言えば産気付くし、秘密を知られてしまったら「このことは忘れなさい」と言えばきれいさっぱり忘れてしまう(もしくは、厳重に封をして、記憶の奥の奥へと仕舞い込んで、思い出さないようにしているのかもしれない)。 「死ね」と言えば、聞いた者は自ら命を断つ。  言葉を介して発揮されるからには、この能力には自ずと限界がある。  まずはその言葉が通じること。そして物質的、肉体的に可能な範囲であること。  例えば「空を飛べ」と言っても人間は飛べないし、男に「妊娠しろ」と言ってもそれは無理だ。ただ、言われた者はできるだけのことをする―――実際幼いサクが「お空を飛んでみて」と”お願い”して屋根から飛び降りて骨を折った者がいるし、「宮からの命でなんとか赤ん坊を身ごもろうとして糞が詰まって死んだ男の話」という、昔話もある(これは民に無茶な命令をしてはいけないという教訓話で、本当にあった話かどうかはわからない)。     
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