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蒼姫さんは、紐付けされた鍵を首から解き外した。鍵は普通より小さめの大きさで、長細い。鍵先はF字形だ。蒼姫さんは迷うことなく、左側の引き出しの鍵穴に鍵を差し込み右にひねる。引き出しから"カチッ"と音が鳴った。鍵をそのままにして、少しずつ引き出しの取っ手を引く。その引き出しの中には、手にすっぽりと収まる単眼鏡や黄色い規制線、ローライ35Sという高価なフィルムカメラ等も入っている。引き出しから蒼姫さんが選んだものは、ピンセットとチャック付きの大小のビニール袋だった。これから、例の手紙と桜の花びらを保存する。今回は、細かい作業ということで、蒼姫さんに全てを御願いした。これは、探偵部の暗黙の了解でもある。何故なら、白菊さんは大雑把で、自分は極端に不器用だから…。先ずは、ソファーの机に置いてある手紙からだった。蒼姫さんは、ピンセットを使わずにそのまま、大きい袋へ入れた
。次にソファーの上にある桜の花びらを採取する。器用にピンセットを使い花びらを小さい袋にそっと入れた。最後に袋2つの空気を少しずつ抜きながら、慎重にチャックを閉めた。蒼姫さんは、一人で難なく作業を終わらせた。そして、ピンセットを元の場所へ戻し、2つの袋を引き出し内に保管した。
作業が終わり、気を取り直して、大梅先輩を探し始めることになった。先に部屋を出ると、部室前の廊下にいた小宮は、大窓から雨空を眺めていた。暇な自分は、小宮に語りかけた。
「遅くなってごめん。少し準備をしていて…」
「いやいや全然、構わないよ」
そう言うと、何故か小宮は苦笑いを浮かべた。丁度、部室から白菊さんと蒼姫さんが出て来る。蒼姫さんが部屋の鍵を締め終えた直後だった。突然、雨音を遮る様にして、女性の悲鳴が新校舎内に響き渡った。いきなりの出来事に自分と小宮は驚いたが、蒼姫さんと白菊さんは、直ぐに駆け出した。ふと、我に返った自分と小宮も、蒼姫さんと白菊さんを追う様にして、悲鳴のあった場所へと向かう。
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