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スナック花水木
その店は、最寄りの私鉄駅の近くにあった。
引っ越して来たばかりの私が、駅前通りをあてもなく歩いていた時
「フロア女性 急募」の張り紙が偶然、目に留まった。
ビルの地下に下りるとスナックの扉があり、吸い寄せられるように私は店の中へ入っていった。
若い女性ふたりと恰幅の良い老紳士が、一斉に私の方を見た。
「いらっしゃいませ~」
ホステス達は明るい声をあげたものの、女の一人客である私を訝しそうに見ながら近づいて来た。
「えーっと…お待ち会わせ?」
「いいえ…あの、表の張り紙を見たのですが…」
「あー!アルバイトの?社長!応募の方ですって!」
どうしよう。
どうして張り紙を見たなんて言ってしまったのだろう。どんな雰囲気の店か、客として様子を見てからでもよかったのに。
社長と呼ばれた老紳士は一瞬、鋭い目つきで私を見ると、ゆっくりと立ち上がった。
「お客さんもいないし、ここで面接するか。履歴書は持って来た?」
「いいえ、通りすがりに見たものですから…」
「ふうん。あんた幾つだい?」
「22歳です」
「22歳!ミホちゃんと同じだ!」
「しっ!静かに!」
聞き耳を立てているホステス達の声が、丸聞こえだった。
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