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ある日、私が出勤すると店の中に、ただならぬ雰囲気が漂っていた。
出入り口に一番近いテーブルには、アイちゃんと常連客のカワダさんが向かい合って座っている。
カワダさんが小声で一所懸命に何かを話しているのに、アイちゃんは下を向いたまま押し黙っていた。
他の客は常連のキタノさんだけで、タエさんと雑談するふりをしながら、アイちゃん達の様子を伺っていた。
私は、アイちゃんの所に入り込めそうもないので、タエさんのテーブルに着いた。
すると、突然アイちゃんが立ち上がり、バタバタと厨房の奥に消えてしまった。
泣いているように見えた。
カワダさんは茫然とし、我に返ると苛ついたように赤いソファーの座面を拳で強く叩いた。
それを見てタエさんは、すぐカワダさんのテーブルに移動し、いつもの調子で明るく話しかけていた。
キタノさんが私に顔を寄せてきて、ヒソヒソ声で言った。
「なあ、アイはあの野郎と、デキてたのか?」
「まさか。うちは、お客様との恋愛は禁止だもの…」
するとタエさんが、こちらの席に戻ってきた。
「私じゃダメだ。次、ユキちゃん。カワダさんのとこお願い」
「えーっ?」
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