スナック花水木

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働き始めてすぐに、自分は水商売向きではないと思い知る。 女の子が4人揃ったのは初日だけで、通常は女の子3人と雇われのマスターで店を回していた。 客にはそれぞれお目当ての子がいる。 新入りの私は一見客か、特にお目当てがいない常連客に着かされた。 でも私には、客を楽しませる話題が何ひとつなかった。 テレビもないし、新聞もとらないのでその日のニュースさえ知らない。スポーツや芸能界にも興味がないので、その話になっても相槌すら打てなかった。 タエさんとミホさんはどんな話題になっても上手に場を盛り上げて、客を楽しませていた。 アイちゃんはいつもキャッキャと笑うばかりで、時々、鼻にかかった声で「やだー」「うっそおー」等と言っていた。 「バカ、大嫌い!もう来なくていいから!」 等と言われてもデレデレ笑う客を(阿呆じゃなかろうか)と思いながら、それよりも自分のテーブルの寒々しさを何とかしなければならなかった。 何か話さなければ…と焦るほど、口からはつまらない話しか出てこない。後でタエさんやミホさんからダメ出しをされていた。 お喋りは上手く出来ないけれど、客とのデュエットはなかなか好評だった。     
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