夏至

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「それじゃあ……また、顔出すから。」 お邪魔しました、と言いそうになったのを、僕は内心慌てて言い換える。色々な『お土産』を助手席だけでは足りなくなって、後部座席にも積み込む。窓から笑顔で手を振って車を発進させ、最初の角を曲がる。そこで初めて、僕は深く息を吐いた。 僕は目の前に現れる車のナンバーで、次々と適当に語呂合わせを考える。ニコニコ(25-25)、イイヨ(・114)、トーシロ(10-46)・・・、そうやってクダラナイ遊びをしばらく続けている内に、いつもの自分の調子が戻って来るのが分かった。CDを止めて、Bluetoothでスマートフォンのプレイリストを再生する。シュランツのBPMに一気に脳が高速回転する様な気分になって、僕は指でハンドルを叩いてリズムを刻んだ。 決して悪い人達では無い。別れ際の偽りの無い笑顔を僕は思い出す。けれども今でさえも、時々彼らを何と呼べば良いのか分からなくなる。勿論、親のいない僕を高校卒業まで面倒見てくれた事には、生涯感謝し続けるだろう。僕が高校を卒業してもう10年経つが、相変わらず月に何度もこうやって皆で過ごしている。 リョウタだけは実子だが、僕を始めとしたマユミもユイもタイガも夫婦とは血の繋がりは無い。血の繋がりがあっても、一緒に暮らす事でタイガの様に死にかける事だってあるのだ。そう考えれば、自分は幼い頃から十分に恵まれた生活をしていたと思う。皆で行ったキャンプ、クリスマスのケーキ、お弁当を作ってピクニックに行った事もあるし、ワゴン車に乗って車中泊の旅に出た事もあった。瞬間瞬間に、僕は本気で感動し、笑い、泣き、怒り、また笑っていたと思う。それなのに何故、と言う思いがぽっかりと浮かんで来るのだ。そうして、僕が彼らの全てを素直に受け止めようとすればするほど、その何故、も大きくなっていく様な気がした。
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