夏至

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此処には誰かがやって来る事は無いが、誰かが行ってしまう事も無い。それが僕に、諦めと言う名の絶対的な安心感を与える。期待をすればするほど、裏切られた時のダメージは大きい。僕は、自分の涙で世界が沈むのでは無いかと思う程に泣いた日の事を思い出した。 施設の職員は、入れ替わりが激しかった。薄給な上に労働時間もあやふやな環境で、子どもと言うただでさえ厄介な人間と係わり続けなければならないのだ。おまけに大抵が普通とは呼べない環境で育ったか、保護された子どもである。幸いな事に僕が当事者になる事はあまり無かったが、職員に対しても、子ども同士でも問題には事欠かなかった。物心ついた時には僕はそこで暮らしていた。幼い頃は周りに僕のお父さんは、お母さんはと聞いていた時期もあった気がする。後に、心中なのか事故なのか分からないが両親が自分を置いて行ってしまったのだと言う事だけ理解した。ある日突然現れて、それからいつも僕に優しくしてくれていた職員は、ある日突然姿を消した。僕と一緒にいると言っていたのに。「コトブキタイシャ」と言う職員同士の会話の言葉の意味は分からなかったが、彼女もまた自分を置いて行ってしまったとだけ理解した。言葉の意味を理解する頃には、捨てられたのではなく、裏切られたのだと思う様になっていた。沢山の出会いもあったが、結局いつかは別れてしまうのだ。それならば最初から、ひとりでいれば良いのだと僕は思った。
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