夏至

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 お疲れ様です、と事務所に残っていた面々に声を掛けてから僕はバス停へと急いだ。普段は車で通り過ぎて行くだけの道を歩くのは、何だか変な感じがする。定刻より2分遅れで到着したバスに乗り込み、乗車券を取って空いていた1人席に座る。久し振りに乗るバスに、僕は思わず小学生の様にキョロキョロしてしまう。バスが大きな橋を渡る度に周囲の景色が変わって行く。工場地帯から、港湾地帯、そしてビルとマンションの立ち並ぶ目的の都心部に到着した。時間にすれば15分程度だが、小旅行をしたような気になって僕はバスを降りる。そしてそのままバスセンターが直結した駅へ向かい、待ち合わせの南口にある銅像を目指す。 「セッちゃん見付けた!」 その一言と同時に、突然僕の左腕にずっしりと重みが掛かる。サキだ。彼女の右腕が、僕の左腕に絡まっている。 「丁度着いたの。良かった。」 横の改札から出て来た所らしい。他の乗客も次々と改札から出て来るが、立ち止まっている2人を器用に避けて構内に広がって行く。 「お疲れ。」 そう言って僕は彼女の右腕を外し、代わりに軽く肩を抱き寄せる。サキは外された右腕を僕の腰へと回すが、届かないらしくそのまま服の裾を掴んだ。 「セッちゃん、今日ホントに大丈夫?」 惜しげも無く身体を押し付ける様に密着させたまま、サキが見上げて来る。そういう彼女の方が、今日は化粧で誤魔化せない程度に顔色が悪い。きっとまたゼミのレポートに追われているのだろう。それとも卒論とやらだろうか。大学の様子が分からない僕には想像もつかないが、きっと大変な思いをしているのだろう。
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