夏至

8/18
前へ
/18ページ
次へ
「こっちとそれとだったら、どっちが良いかな?」 微妙に内容の違うお菓子の詰め合わせを指差して僕は尋ねる。サキは少しだけ悩んでから、片方を指差す。 「私が食べたいから、こっち。」 「サキじゃなくて、サキのご両親が食べそうなのを聞いてるんだけど。」 「私とお母さん、好み似てるから大丈夫!」 成程。サキの言い分に納得し、僕は彼女の選んだ詰め合わせを包んでもらう。小奇麗な女性店員がレジから出て来て、紙袋を手渡してくれる。このデパ地下とかにありがちな馬鹿丁寧なお見送りが、僕はちょっと苦手だ。 右手に紙袋を、左手にサキの手を握り10分程の道程を歩く。その間もサキはカッコイイ車だとか、珍しい色の小鳥だったとか雲の形が面白いだとか忙しそうにしている。僕の予想通りレポートで寝不足だと言っていたが、目の下のクマが無ければ誰も彼女が30時間以上寝ていないなんて思わないだろう。寝不足によるハイテンションだけで無く、今から親に彼氏を紹介するハイテンションなのかも知れない。父親は明日まで出張で母親しかいないから気軽な感じで、と彼女は言ったが僕の方としては気軽になれるはずも無い。本当はサキの卒業後に落ち着いてから、と僕は考えていたのだが彼女に押し切られる形で今日に至っている。 サキとの出会いは2年程前、駅チカの居酒屋だった。飲み会の会場として訪れたその店が、彼女のバイト先だったのだ。先輩や同僚の悪ふざけで、バイト中の彼女に僕の連絡先を渡されてしまったのがきっかけになった。勿論その時は連絡は来なかった。僕の方が気になって1人飲みで店に通う内に、互いの連絡先を交換するに至ったのだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加